「変動と固定、どっちが得か」― その問いの立て方が損を生む
日銀が利上げに動き、住宅ローンを組む人・借り換えを考える人の多くが「変動と固定、結局どっちが得なのか」と悩んでいる。だが多くの解説記事は「金利上昇が怖いなら固定」「リスクを取れるなら変動」と、リスク許容度の話で終わってしまう。それでは結局自分がどちらを選ぶべきか分からない。この記事では、感覚論ではなく「変動金利が将来何%まで上がったら、固定に負けるのか」という分岐点から具体的に読み解く。
先に結論 ― 問うべきは「どっちが得か」ではなく「変動が何%上がったら逆転するか」
2026年6月時点で、変動金利は主要銀行で0.9〜1.1%台、全期間固定(フラット35)は3.2%前後。スタート時点では変動が圧倒的に安い。だから本当の問いは「どっちが得か」ではなく、「この差を逆転させるほど、将来変動金利が上がるのか」だ。逆転に必要な上昇幅を知れば、自分の家計が固定の”保険料”を払う価値があるかを判断できる。
2026年6月の金利相場 ― 変動と固定の「差」を確認する
まず現状を押さえる。2026年6月時点のおおよその金利水準は以下の通りだ。
| 金利タイプ | 2026年6月の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 変動金利 | 0.9〜1.1%台 | 日銀の政策金利に連動。利上げ局面では上がるが、現状は最安 |
| 10年固定 | 2.9〜3.2%台 | 当初10年は固定、その後変動などに移行 |
| 全期間固定(フラット35) | 3.2%前後 | 完済まで金利・返済額が一切変わらない |
日銀はマイナス金利政策を解除した後、段階的に利上げを進め、2026年6月には政策金利を1.0%まで引き上げた。今後も利上げが続けば変動金利は上がっていく。だが出発点では、変動と固定で2%以上もの差がある。この「2%の頭金(ハンデ)」を変動金利が背負わせている、と捉えるとわかりやすい。
変動が何%まで上がったら、月返済額はどうなるか
4,000万円を35年で借りた場合、変動金利が将来どこまで上がると、月々の返済額がどう変わるかを試算した。比較のため、全期間固定3.2%の返済額も並べている。
| 適用金利 | 月返済額(4,000万円・35年) | 固定3.2%との差 |
|---|---|---|
| 変動 0.9%(現在) | 約111,100円 | −約47,400円/月 |
| 変動 1.5% | 約122,500円 | −約36,000円/月 |
| 変動 2.0% | 約132,500円 | −約26,000円/月 |
| 変動 2.5% | 約143,000円 | −約15,500円/月 |
| 固定 3.2%(全期間) | 約158,500円 | ±0 |
この表が示すのは、変動金利が2.5%まで上がっても、月返済額はまだ固定より約1.5万円安いという事実だ。変動金利が現在の0.9%から2.3%以上も上昇して、ようやく固定と肩を並べる。日銀の利上げペース(1回0.25%が目安)で考えると、これは相当に大幅な上昇を意味する。さらに、上がるまでの数年間に変動で浮いた返済額の「貯金」も考慮すれば、逆転のハードルはもっと高い。
それでも固定が向いている人 ― 「金利」ではなく「家計の耐久力」で決める
数字だけ見れば変動が有利に見える。だが固定には数字に表れない価値がある。それは「返済額が一生変わらない」という安心、つまり金利上昇リスクを銀行に肩代わりしてもらう”保険”だ。次のような人は、多少高くても固定が向いている。
- 返済比率が高い:年収に対する返済額の割合が高く、金利が1%上がるだけで家計が苦しくなる人
- 共働きでない・収入が増えにくい:将来の昇給で返済増を吸収しづらい人
- 精神的な安定を重視:金利ニュースのたびに不安になるより、毎月の額が固定されている方が生活設計しやすい人
逆に、返済比率に余裕があり、繰り上げ返済の余力があり、金利が上がっても数万円の増加を吸収できる人は、変動の低金利メリットを取りにいく合理性が高い。
トナリの視点 ― 固定金利は「保険」、保険は得か損かでは選ばない
数字を扱う立場から一つ。固定金利を「変動より総額で得か損か」だけで判断するのは、火災保険を「火事にならなければ損」と言うのに似ている。固定金利の本質は、将来の金利上昇という”読めないリスク”を、毎月の上乗せ分(保険料)と引き換えに銀行へ移転する契約だ。だから判断基準は「期待値で得か」ではなく、「もし最悪のシナリオ(金利が大きく上がる)が来たとき、自分の家計はそれに耐えられるか」である。耐えられないなら、期待値で多少損でも固定を選ぶ価値がある。耐えられるなら、変動で低金利を享受しつつ、浮いた分を繰り上げ返済や貯蓄に回す――どちらも合理的な答えになりうる。
よくある質問
今は変動と固定、どちらを選ぶ人が多いですか?
足元では依然として変動を選ぶ人が多数派だ。スタート金利の差が大きく、利上げが続いても当面は変動が安いと見る人が多いためだ。ただし金利上昇局面に入ったことで、安心を求めて固定や10年固定を選ぶ人も増えている。多数派かどうかより、自分の家計の耐久力で決めるのが本筋だ。
変動金利には「5年ルール・125%ルール」があると聞きました。安心では?
多くの銀行の変動金利には、金利が上がっても5年間は月返済額を据え置き、見直し後も従来の1.25倍までしか上げない仕組みがある。ただしこれは返済額を抑えるだけで、増えた利息が消えるわけではない。据え置かれた分は「未払い利息」として後ろにずれ込み、元金が減りにくくなる。安心材料であると同時に、落とし穴でもある。
すでに変動で借りています。今から固定に借り換えるべき?
借り換えには手数料(数十万円規模)がかかるため、「金利が上がりそうだから」という不安だけで急ぐと、かえってコスト負けすることもある。まずは自分のローン残高・残り年数で、変動が何%まで上がったら固定総額を超えるかを試算し、その水準が現実的に来そうかで判断するとよい。
主な参考資料:住宅金融支援機構「フラット35」金利情報(2026年6月)/ 各主要銀行の住宅ローン金利(2026年6月)/ 日本銀行「金融政策決定会合」公表資料
※本記事は公開情報をもとにした一般的な解説であり、特定の金融商品・契約を推奨するものではありません。試算は概算であり、実際の返済額・判断は金融機関や専門家にご確認ください。
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